東京高等裁判所 昭和36年(お)1号 決定 1965年12月01日
主文
本件各再審請求を棄却する。
理由
検察官の主張について、
検察官は本件再審請求は請求権が消滅した後になされた不適法なものであると主張する。すなわち本件再審請求は原事件の被告人坂本清馬、同森近運平につき無罪の判決を求めるものであるが、無罪の判決がこの請求に応じてなされるためには、もし再審が開始されたとするならば、再審裁判所によつて事実認定のための実体審理を行うことができなければならないことが、欠くことのできない前提となる。しかるに刑法第七三条の規定は昭和二二年法律第一二四号「刑法の一部を改正する法律」(同年一一月一五日施行)によつて廃止されたから、同法施行の日から大逆罪については「刑の廃止」という旧刑事訴訟法第三六三条二号(現行刑事訴訟法第三三七条二号も同様)の免訴の事由が生じたのであり、しかして免訴の事由の存する場合には裁判所は免訴の裁判をもつて訴訟を終結することを要し、実体の審理を行うことができないから、再審裁判所の訴訟手続は存在理由を失うこととなり、再審請求も無意義となるから、結局再審請求は不適法となるというのである。
案ずるに刑法第七三条が昭和二二年法律第一二四号により廃止されたこと、旧刑事訴訟法第三六三条二号(現行刑事訴訟法第三三七条二号も同様)が「刑の廃止」を免訴の事由としていることは明らかであり、しかして免訴の判決を形式的裁判と解する限り(最高裁判所昭和二三年五月二六日大法廷判決、同裁判所判例集第二巻六号五二九頁参照)実体上の審理を行うことができないことも当然である。
しかし、所論が「もし再審が開始されるとするならば」といい、再審の開始されることを前提としながら、「刑の廃止」を持ち出して免訴の判決をしなければならなくなるというのは、前後が一貫しない嫌いがある。ここではむしろ「刑の廃止」により再審請求権が影響を受けるかどうか、「刑の廃止」にかかわらず再審請求が許されるかどうかがまず問題とされているのである。しかるところ、刑が廃止されたというだけでは、確定判決の効力に変動があるわけではなく、そのほかに「刑の廃止」により再審請求権が否定されるとする事由は発見できないから、「刑の廃止」によつては再審請求権は消滅せず、ひつきよう旧刑事訴訟法第三六三条二号(現行刑事訴訟法第三三七条二号も同様)は通常手続における規定であり、非常救済手続たる再審には適用のないものと解すべきである。そこで検察官の主張を斥け、進んで実体に入り再審理由の有無につき判断したのである。(長谷川成二 関重夫 小川泉 上野敏 金末和雄)